「今日・・・、結局一箇所しか見れなかった」
「だって、珪はいつも忙しくて
旅行の時くらいゆっくりしても良いかなって思ったんだもの」

「・・・バカだ。おまえバカだ」
「・・・そんなふうに言わなくたっていいじゃん」
「あのさ・・・・今日の夜、・・・おまえ、俺の部屋来いよ」

「え?」
「冗談・・・・、修学旅行じゃ・・・さすがに、な」

「ん、もう!珪ったら・・何考えてるの?」
「おまえこそ、・・・赤くなってる」

俺たちは、奈良、京都の修学旅行へ来ている
と付き合うようになって、まだ一ヶ月半

あの夏の日
花火大会の夜
俺が、心のうちを伝え
は俺に応えてくれた・・・

そして・・・
夏休みが終わる頃
俺たちは一つになっていた
心も・・・身体も

修学旅行先では、大部屋とツイン
希望の部屋を選べるようになっていた
男子は大部屋が多くて
揃ってごろ寝
夜通し、枕投げ・・・そして大騒ぎ・・だろうと思う

でも、俺は・・・・
騒がしいのは苦手で
ツインの部屋を選んでいた

ツインの部屋を選んだ変わった奴は
俺のほかには少なくて
俺のルームメイトは・・・

「葉月くん、僕がこの部屋で眠るなんて
 そんな間違った事があると思うかい?
 だって、こんなにも美しい僕が
 こんなに狭くて
・・・そう、まったく芸術の欠片も感じられない部屋で
 安息できるわけが無いんだ」

「・・・・だから?」

「いいかい?僕はこれから、最上階のスウィートに行くことにする
 もちろん、そこで待っている僕のプリンセス・・・
 そう、ミューズと共に
 真っ白いキャンバスに
 ミューズの微笑と、古都の美しさを描くのさ」

「須藤瑞希の部屋で、須藤のヌードでも描くのか・・・?」

「葉月くん、君には解かるんだね?
 彼女の美しさ、そう、他の何にも変えられない
 生まれたままの姿が、最高の芸術作品なんだ
 僕と彼女は、生まれながらにして選ばれている
 プランスとプリンセス・・・
 君にもわかってもらえて嬉しいよ」

「・・・・戻ってこなくて・・いいぞ」

「何を言っているんだい、葉月くん?
 戻る訳無いだろう、だから、見回りがあった時はそのつもりで、ははははは」

嬉しそうに部屋を出てゆく三原を見送りながら
俺は、昼間のことを考えていた

は、俺のことを気遣って
自分が見回りたい場所すら我慢したのではないだろうか

そんなの優しさ
そんなの愛
俺が、を求めて止まないのは
が、本気で俺を解かってくれているから

俺が、気難しくても
俺が、ぶっきらぼうでも
どんな時にも
俺に微笑んでくれた
彼女の優しさに触れて
俺は、自分の心を素直に曝け出す事が出来た・・・

pipipipi----pipipipi----pipi

鞄の中で携帯の呼び出し音がした
着信表示は「 

「・・・どうした?」
「珪?あのね、私の部屋・・・、三原くんが来て追い出されたんだけど・・・」

「え?おまえって、須藤と同室だったのか?」
「ううん、本当は珠美ちゃんと一緒だったんだけど、・・・・鈴鹿君が来ちゃって・・」

「・・・ああ」
「それでね、行くところなくてどうしようって
 ・・・廊下でウロウロしてたの、そうしたら瑞希ちゃんが
 『瑞希のスウィートの第三寝室で良ければお貸ししても良くてよ』
 って言ってくれて、さっきそっちへ移ったとこだったの」

「はは、そうしたら、三原か・・」
「うん・・・・、ひどいよー、行く所無い私のこと気にしてくれたっていいのに!」

「・・・行く所、あるだろ?」
「え?」

「俺のルームメイト、三原だったから・・、今俺一人」
「・・・ん、それじゃ、行っても・・?」

「・・・俺は、構わない」
「じゃ、鍵開けて?」

「え?」
「今・・・、珪の部屋の前・・・」

俺は慌てて、ドアを開けた
そこには、体操服姿でにっこり笑うがいた
が部屋に入ると、甘い香りがした

「・・・おまえ、なんで電話?」
「だってー、なんか、誰かいたりしたら・・・って」

「は?・・・誰かって、誰?」
「他の男の子とか、見つかったら恥ずかしいもん」
「・・・照れるような仲じゃないだろ・・?」

は風呂上りなのか、少し長い髪を、アップにしていた
普段見るのとは違う、女らしい雰囲気
うなじが妙に色っぽく感じて
俺は、目をそらさずにいられなかった

そんな俺の気持ちなど、お構い無しで
が・・・俺の手を握り締めてくる
でも、俺は、高ぶる感情を抑えなければいけなくて
その手を振り払った
するとは少し驚いて

「珪?何か怒ってる?」
「・・・いや、そうじゃなくて」

「どうして?二人きりだから、手くらい握ってもいいかなって・・嫌だった?」
「・・・手くらいで、済まなくなる・・・だろ」

は急に真っ赤になって、俺を睨むと

「もう、珪の頭の中は最近そればっかり」
「・・・悪かったな」

「・・また怒る」
「・・・、怒っていない」

「怒ってる!」
「怒って・・・ない」

俺が、に怒っていないと言っても
の目に映る俺は、明らかに不機嫌で、嫌な顔なんだ
だから、は俯いて、気まずい時間だけが流れてゆく

「・・・ごめんね」
「ん・・?」

「私、来なければよかった、珪の部屋」
「・・・何で?」

「もう帰る」
「・・おい、帰るって」

「もう、誰か他の人の部屋に行くから・・・いいよ」
「だから、何でそう考えるんだ」

「だって、珪は、私が来て困ってる・・・」
「・・・・ああ、困ってる」

俺は、抑えきれずに、の腕の中へ押し込めると
きつく抱きしめる

「珪・・・」
「こう、したくなるから・・・困る」

「・・・困る?」
・・・」

俺は、抱きしめた腕を緩め
の唇に蓋をする

の髪から、シャンプーの香りがして、俺の鼻をくすぐる

「おまえのシャンプー、いい匂いがするな・・」
「・・・珪の胸は、いつもの香りだね・・・」

俺は、気がつくと、の身体を、ベットへ押し付けていた

「珪・・」
「・・

また深く口付けて、二人の呼吸が重なり合ってゆく

「・・・ん・・はぅ・・」

の口から、甘い吐息が漏れ始めた
俺は、体操服の下にすばやく手を滑る込ませると
の温かな肌に触れる
そして・・・・

ピンポーン♪ピンポーン♪

突然鳴り響いた、部屋の呼び鈴

「ねえ、ここを開けてくれないか?僕だよ!」

部屋の前で大きな声で騒いでいるのは、さっき出て行ったはずの三原
俺は、不機嫌な顔のままでドアを開けた

「葉月くん、僕とした事が、大事な筆が無いんだ。
 あれが無いと、ミューズの微笑みに会う事が出来ないんだ」
「・・・?」
「この狭い部屋に忘れている事など無いと思うんだけど、見なかったかい?」

三原が構わず部屋に入ってこようとするから、俺は慌てて止める

「・・・ちょっと待ってろ」

「この僕を待たせるのかい?一体何が起きているって言うんだい?
 そうか!僕が筆を忘れて行った事が不思議なんだね、そう、僕だって何故かわからないよ。
 でも、ミューズの微笑みにあう為には、あの筆が」

「・・これ?」

「そうさ、これだよ!これが無いと僕は僕でいられないんだ、だから」

俺は、なにやら語り続ける三原を放って、構わずドアを閉める

部屋へ戻ると、が声を出さずに、でも、身体中で笑っている

「・・・もう行ったぞ」
「あはっ・・・あははははは」
「・・・笑えるな」

俺たちは、顔を見合わせて笑いこける
そして・・・、またキスをしよう・・・な


END



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